「あなたは自由人です。自由人は、定期的に充電が必要です。今回の台湾旅行のように」
あぁ、そうだったのか。私は台湾に充電しに来たのか。だから、何もしたくなかったんだ。いや、何もしないということをしたかったのかもしれない。
ひとりで台湾旅行に来たものの、なぜか出掛けるのが億劫で、ホテルでダラダラしていた。ずっとホテルにいるわけにもいかないので、旅行ガイドブックをパラパラとめくり、なんとなく「占い横丁」をめざした。そして、徐先生に仕事について、占ってもらうことにしたのだった。
徐先生は、紫色のチャイナドレスを着た品のある、六十代の占い師。話す日本語はやわらかく、母親が幼い子どもを見守るような温かさがあった。四柱推命や、つまんだ米粒の数で占う「米粒占い」をしている。
私を自由人だと見抜いたように、徐先生の占いは結構当たっていた。ライターの仕事を辞めようとしたけれど、踏ん切りがつかなくて悩んでいることも、ピタリと言い当てた。「今の仕事は辞めないように。後から、その意味が分かるでしょう』と言う。
さらに、徐先生に優しくこう言われて、私の涙腺が突然ゆるんだ。
「自分のことをもっと周りの人に話して。皆、あなたのことを心配していますよ」
悩みを誰にも打ち明けられなくて孤独だった苦悩を、分かってもらえた気がした。本当はこうして、誰かに話を聞いてもらいたかったのだ。それをずっと放置していたから、充電が切れたのかもしれない。それに、自分が思っている以上に、家族や友人たちは、私のことを気にかけてくれているのかもしれない。そう思うと、どこか安心したのだった。
私の不安や自信のなさを見透かしたような、徐先生のアドバイスが心に浸みる。
「自分で自分をうまく励まして。人生がうまくいかないのは自分だけじゃない。他の人も同じだから大丈夫と、考えるとかね」
「心想事成ということわざを知っていますか。念ずれば花ひらくという意味です。もっと自分のことを信じて」
特に好きなのは、これだった。
「晴れだと思っていたのに雨だったら、どうするか。雨でもいいじゃない。自分の心の中に晴れを持っていれば」
これで充電満タン! おいしいお昼ごはんを食べてね。と、徐先生に笑顔で送り出してもらって、晴れやかな気分になった。徐先生に自分のことを理解してもらえたような気がして、胸のつかえが取れた。
今回、自分がなぜ台湾を訪れたのかよく分からなかったが、きっとこの占いを聞くためだったのに違いない。
そんな不思議な縁を感じながら、軽やかな足取りで、占い横丁を後にしたのだった。