「野菜だけでこんなにおいしいのなら、もう肉なんていらない!」
2014年に南インドでカレーを食べたあの日から、私は南インド料理のとりこになってしまった。
インドを訪れたのは、インドの伝統医療アーユルベーダの施術を受けるためだった。
当時、会社員をしていた私はストレス過多で、高熱や胃腸炎、めまいなどに定期的に見舞われていた。そこで体調を整えるために、世界三大伝統医療のひとつであるアーユルベーダの施術をインドで受けてみることにしたのだ。
南インドのケララ州にあるアーユルベーダ療養所「Health Village」に1週間の滞在。人生初のインド旅行だったので、多少の不安はあったものの、一体どんなところなのだろうという好奇心の方が強かったと思う。
「Health Village」は、コーチン空港から車で約1時間のところにあった。こぢんまりとしたペンションのような雰囲気で、大きな川辺に面していてとても静か。敷地内では何種類ものハーブが育てられていたり、ココナッツの木にハンモックがかかったりしていて、心が安らぐ。
さて、長旅で腹を空かせた私は食堂へ向かった。
メニューはなく、料理の内容はシェフに一任されているようだ。席に着くと、ご飯と豆・カリフラワー・ニンジンやインゲン、カボチャなどが入ったカレー3種類が出された。自分の皿にカレーとご飯をよそって、混ぜて食べるらしい。
カレーを口に入れた瞬間、目の瞳孔が見開き、思わず「う~ん!」と唸ってしまった。
マスタードシードやクミン、ペッパー、ガラムマサラなど、何種類ものスパイスが絶妙な配分で混ざり合い、言葉では言い表せない深みのある味だった。かと言って濃厚すぎるわけでもなく、野菜そのものの味もしっかりと感じられる。
あまりの芸術的なスパイスの味付けに「今まで自分が作っていた薄味の日本食は一体何だったんだろう」と、ショックを受けたほどだった。
その後、私は、全身のオイルマッサージや額にオイルを上から垂らし続けるものなど、念願のアーユルベーダの施術を1日2回受けられたのだが、施術よりも食事の方が楽しみになってしまった。
滞在中は朝・昼・晩とすべてベジタリアンの南インド料理を食べ続けた。しかし、一度もカレーに飽きたとか肉を食べたいとか思うことがなかった。しかも、あまりのおいしさに食べすぎて、お腹を壊してしまったほどだ。
南インドでしっかりと体調を整えて日本へ帰国した後、しばらく何を食べても味が淡白に感じられた。どうやら舌が南インド料理のスパイスにすっかり慣れてしまったらしい。その違和感もさみしいことに、1週間くらいで消えてしまったが。
南インド料理を食べた時の感動をまた味わいたくなり、最近、Youtubeを観ながら南インド料理を作っている。
「う~ん!これこれ」
と、あの時に食べた味をいつか再現できることを目標に、今日もまた南インド料理を作る。